京都地方裁判所 昭和46年(む)13号 決定 1971年4月30日
主文
司法警察員の昭和四六年四月二三日になした本件各差押処分中、別紙押収品目録記載の(二)の二、三、五、(四)の七、一四、一七、二〇、二一、二四の各物件に対する差押処分はこれを取り消す。
その余の本件各準抗告の申立は、いずれもこれを棄却する。
理由
一、本件各申立の趣旨および理由は、代理人提出の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
二、はじめに、本件各申立の適否について考察するに、本件各申立をなしうるものは、刑事訴訟法第四二九条第一項および第四三〇条第二項にみられるとおり、「不服がある者」と規定され、その中には、当該被疑者のほか、その裁判の効力を受ける者を包含するものと解すべきである。
ひるがえつて、本件各申立人についてみるに、一件記録によればFを除くその余の申立人は、いずれも本件各捜索差押許可状に記載された場所をそれぞれその住居としていることが認められるので、その場所において差し押えられた物は、それぞれその申立人の所有または保管にかかるものと推定され、また、申立人Fは、捜索差押許可状に記載された場所に居住する者であり、かつ、当該差押物件の所有者または保管者と推定されるEの妻として同棲していることが認められ、しかも、その差押処分を受けた際、その場に居合わせてこれに立会つているのであるから、以上の諸点に鑑みれば、各申立人とも、当該差押許可状の効力を受けるものとして右にいわゆる「不服がある者」に該当し、本件につきそれぞれ適法な準抗告の申立をなしうるものと解するのが相当である。
三、そこで、さらに進んで審案するに、各申立人は、まず、当該差押許可の裁判について、その取消を求めているのであるが、本件は、いずれも既に右許可の裁判にもとづく差押処分を受け、その手続は完了していることが認められるので、もはや右許可の裁判自体の取消を求める利益がなく、その取消を求めることは許されないものというべく、ただ、その具体的な差押処分の取消を求めうるにすぎないものと解すべきである。(なお、一件記録によれば、被疑者甲および乙が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる理由があること、および、申立人の多くが、本件被疑事実に関係あることが推認されることなどからみて、本件差押許可状に記載された場所に差し押えるべき物が存在すると推認しうる状況にあつたことが認められる。)
四、一件記録によれば、本件各差押許可状にもとづき差し押えられた物件は、別紙押収品目録記載のとおりなので、その各差押処分の当否について検討する。
(1) 別紙押収品目録記載の(四)の七の物件は、当該差押許可状に差押を許可するものとして記載された物件に包含していないと認められるので、その差押処分は相当でない。
(2) 同目録記載の(二)の二、三、五、(四)の一四、一七、二〇、二一、二四の各物件は、その差し押えられた場所が、本件に関係あると認められる当該申立人の住居であることと照らしあわせてみても、本件被疑事実との関連性を認めることは、甚だ困難であるといわなければならないので、その差押処分はいずれも相当でない。
(3) 同目録記載の右(1)(2)以外の各物件は、いずれも本件被疑事実と関連性のあることが認められる。
ところで、差押は、被疑者以外の第三者の物についても捜査の必要上これをなしうるものと解せられる。そして、その場合に、第三者の所有者または保管者として当然に保有する利益は、被疑者のそれより重く保護されなければならず、しかも、その物を差し押えることによつて、第三者の右のような利益と衝突することも免れ難いのであるから、それらの利益を具さに較量し、第三者の物を被疑事実の証拠として差し押えることにつき必要性が十分認められるのでなければ、その差押処分は許容されないものと解すべきである。
これを前記各物件についてみるに、別紙押収品目録記載の(一)の一は被疑者らの属する組織の活動方針が示され、二、三は同組織の構成員の氏名が記載され、(二)の一は被疑者らの属する集団の組織についての記載があり、四、六は右組織の経理状況が示され、(三)の一は被疑者らの氏名およびその関係者の身上等の記載があり、二ないし一五は被疑者らの属する組織の構成員と思われる氏名およびその身上関係の記載があり、(四)の一、二は起爆装置製造に関係するものと認められ、三ないし六、九、一一ないし一三、および一六、一八、一九、二二、二三は、被疑者らの属する組織の活動方針が記載され、八は右組織構成員らしき者の氏名、住所等の記載および武装集団の組織、爆弾の製造方法らしきものの記載があり、一〇、一五は被疑者甲の氏名および電話番号の記載ならびに被疑者らの属する組織の構成員と思われる者の氏名、電話番号の記載があり、(五)の一、二は被疑者らの属する組織の活動方針が記載されていることが認められ、いずれも、その性質、内容等に照らして勘案すれば、当該申立人の利益に比較するも、捜査上差押の必要性が十分存在するものと認められるので、本件各差押処分はいずれも相当といわなければならない。
五、以上の理由により、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条を適用して主文のとおり決定する。
(橋本盛三郎 田中明生 松本信弘)
押収品目録
(一) Aの居宅における差押の分
番号 品名 数量
一 関西救援会機関誌(地下水道六号一九七〇・一二一〇発行) 一冊
二 ヤマハ(日本楽器)製緑色表紙手帳 一冊
三 右同 一冊
(二) Bの居宅における差押の分
番号 品名 数量
一 ノート(日程と記入のもの) 一冊
二 金銭出納帳 一冊
三 ルーズリーフ用紙 一〇枚
四 メモ用紙 八枚
五 領収書 一冊
六 メモ用紙(改丁予算と記入のもの) 一枚
(三) Cの居宅における差押の分
番号 品名 数量
一 メモ(更半紙に(1)ないし(13)編成
表様のもの) 三枚
二 ないし一五名簿(UG)Gほか
一三名 各一枚
(四) Dの居宅における差押の分
番号 品名 数量
一 ガムテープ(茶色七五ミリ巾位
のもの) 一巻
二 右同(白色一八ミリ巾位のもの)
一巻
三 機関誌(共産同千葉県委員会発
行「プロレタリア戦士」 一部
四 右同(右同委員会発行「一同同
志の……と題するもの」) 一部
五 右同(右同委員会発行「共青同
内部通信」) 一部
六 右同(戦旭一九三号、二〇八号
ないし二一四号各一部) 八部
七 のり(徳用大阪糊黄色ナイロン
袋に入つた未使用のもの) 三本
八 紙ばさみ(黄色表紙、メモ……
軍集団の組織一枚 便箋……住
所録二枚) 一点
九 機関誌(戦旗二〇〇号、二〇三号ないし二〇六号、二〇八号ないし二一一号、二一四号、二一七号、二二〇・二一一号、二二二号、二二四号ないし二二六号、二二九号、二三一号、二三三号各一部、二一二号二部) 二一部
一〇 手帳(黒表紙、電話番号、書
抜手帳) 一冊
一一 機関誌(共産主義者同盟発行
「共産主義」第一四号) 一冊
一二 右同(右同発行「烽火」再刊
一号) 一冊
一三 右同(地下水道六号、七号各
一冊) 二冊
一四 ノート(赤表紙D名義) 一冊
一五 手帳(黄表紙住友銀行一九六
九年版) 一冊
一六 ビラ(討議資料「関西地区叛
軍連絡会議結成集会基調報告」
と題するもの) 一部
一七 右同(討議資料2/7「RG裁判
闘争勝利」集会の要項と題する
もの) 一部
一八 右同(討議資料「第二次共産
主義者同盟……世界……」と題
するもの) 一部
一九 右同(討議資料「RG山田弾
薬輸送列車阻止斗争」……支援
を要請すると題するもの) 一部
二〇 右同(討議資料「スターリン
主義解体のために(上)」と題す
るもの) 一部
二一 右同(討議資料「ソビエト運
動論の止揚と……武装斗争の飛
躍のために」と題するもの) 一部
二二 機関誌(共産主義青年同盟大
阪府委員会発行「鉄の戦線」六
号) 一部
二三 右同(戦旗二五〇号ないし二
五三号各一部、二五四号二部) 六部
二四 プラスチックケース(おおむ
ね8.5センチ×8.2センチ
5.2センチ大のもの) 一個
(五) Eの居宅における差押の分
番号 品名 数量
一 四・一八蜂起派決起集会基調報
告のパンフレット 一部
二 機関誌戦旗綴り 一冊
(内訳二三九号1、 二五〇号2、
二五一号3、 二五二号2、
二五二号1、 二五三号2、
二五四号2、 二五四号1、
二五六号1、 二五五号1、
計一六部) 以上